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排気鐘の実験 もうひとつの見方

身近な自然と科学 Vol.119から

けたたましく鳴っている目覚まし時計に釣鐘のような形をしたガラス器をかぶせ、容器内の空気を抜くと、聞こえていた音が小さくなる。という実験をご覧になられた方は多いと思います。
この実験を“排気鐘の実験”と呼びます。

音が空気を伝わり、その空気が鼓膜を振動させて音として感じるという発想はガリレオが最初のようですが、空気が音を伝える為の媒質であることを実験で証明したのが、イギリスのRobert Boyle が1662年頃に行った“排気鐘の実験”といわれています。

さて、この実験をご覧になったとき、容器の中の空気が無くなったから音が伝わらなくなった、 或いは薄くなったから音が伝り難くなったと説明を受けたと思います。
私もそう説明されました。

ところが、兵藤申一氏は著書『身のまわりの物理(裳華房)』の中で“音響インピーダンス”という考えを導入して「音の伝達媒体としての空気の有無より、音が伝わる際の音響インピーダンスの重要性をデモンストレートする実験と見なした方がよいと思われる」と述べています。

今号では兵藤氏の説を私なりに砕き、肉付けして説明したいと思います。
兵藤氏は音が伝わるか伝わらないかの説明を以下のように述べています。
疎密波が伝わるとき気体の一部が圧縮される訳であるが、これはやはり分子間の衝突という過程を経て行われる。そのため、音が伝わるかどうかということになると、λとLの兼ね合いが問題になるのである。
つまり、λがLに比べて十分大きいうちはよいが、同程度になると伝わり難くなり、λがLよりかなり小さくなると伝わらない事が判っている」ここで、λは疎密波の波長です。
疎密波というのは、物体の中を密度の大きい部分と小さい部分が波の様に動いて伝わるもので、波長さは密度の大きい部分から次の大きい部分までの長さ、或いは密度の小さい部分から次の密度の小さい部分までの長さをいいます。

Lは、気体分子の平均自由行程で、気体分子が他の気体分子に衝突して次に衝突するまでの平均的な距離をいいます。

要約すると
平均自由行程 ≪ 波長 良く伝わる
平均自由行程 ≒ 波長 伝わり難い
平均自由行程 ≫ 波長 伝わらない

次に兵藤氏は実際の数値を使ってLを大気圧下で約10のマイナス7乗メートルλを10のマイナス1乗から10メートルとして、通常はLよりλが大きいから良く伝わるとし。

次に容器の中の空気を抜いた場合の数値として、真空ポンプ(ロータリー型)の排気能力は
圧力値で10のマイナス2乗からマイナス3乗Torr。(Torrは圧力の単位)
この圧力値から空気の平均自由行程を概算すると
Lは5×10のマイナス3乗から5×10のマイナス2乗メートルなのでλの方が大きく、 この程度の真空では可聴音の伝播を抑止できないとしています。


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ここで、兵藤氏は“音響インピーダンス”を持ってきました。
音響インピーダンスは、著書の中では“手応え”と表現されていますが、机の上にピンポン球を置き、机の端から口をつぼめてピンポン球を吹いて動かす場面を想像してください。
口から出る空気の圧力P、その圧力によってピンポン球が動く訳ですが、その速度Uとし、 P/Uというものを求めます。
これを音に当てはめてみます。
太鼓を叩くと音が出るように(張ってある皮が空気を押す)
音は空気を次から次へと押して行くことによって伝わります。
押す力は圧力ですからピンポン球の例に喩えればPです。
ピンポン球の代わりは気体分子です。
圧力によって押されて動く気体分子の速度はUです。
音の圧力Pとそれによって動かされる気体分子の動く速度Uの比、P/Uを音響インピーダンス
といいます。

ピンポン球の例で解るように、ピンポン球ではなく野球のボールだった場合は同じ圧力で吹いた場合はピンポン球より遅く転がるのは想像できると思います。
ですから、空気以外の気体では違う音響インピーダンスを持ちます。
即ち、音響インピーダンスは物質に固有の値なのです。

音響インピーダンスの説明を終わり、音響インピーダンスの値が異なる二つの物質が接していた場合の音波の伝わり方の説明に移ります。

音響インピーダンスZaの物Aから音響インピーダンスZbの物Bに音波が伝わる場合、 接した面で反射されてしまう音波の割合Rは、 R=(Za-Zb)^2/(Za+Zb)^2  ・・・式1

接した面を通過する音波の割合Sは
S=4ZaZb/(Za+Zb)^2   ・・・式2

で表されます。
Za=Zb なら式1で解るようにR=0 反射する音波の割合はゼロです。
式2は S=1 となり全て通過する事になります。

実際の音響インピーダンスの数値を兵藤氏は、 容器のガラスを約10の7乗
常温空気を約4×10の2乗
と計算し、 目覚し時計の音がガラスを透過する割合Sを、10のマイナス4乗に過ぎないとしています。
このような小さな透過率でも聞こえるほど聴覚は精巧に出来ている訳です。

次に、容器中の空気をある程度抜いた場合です。
一般に気体の音響インピーダンスZは
ρを密度
γを比熱比
pを圧力とすれば

Z=√(ργp)
で表されるとし、 容器内の空気を排気して圧力を下げれば、音響インピーダンスZは排気する前よりも小さくなり
容器のガラスの音響インピーダンスとの差が広がり、更に音波の透過率が下がります。

兵藤氏は
「音響の専門家からは、 あまりにも問題を単純化していると叱られそうであるが・・・」と、単純化している問題部分を列記していますが、排気して音波の媒質である空気を多少減らすより、音響インピーダンスの変化の方がより音が聞こえなくなる事に寄与しているだろうと述べています。

では、異なる音響インピーダンスを持つ媒質間で
反射する音波と透過する音波の割合を求める式1、式2を導いてみます。
面倒な事は嫌だという方は飛ばしてください。

左側を媒質A、右側を媒質Bとし、両媒質は中央で接し、入射音波は両媒質が接している面に直角に当たっているとします。

音波の圧力は複素数(二乗するとマイナスになる部分を含む)
で表されますが、テキスト形式では表現できないことを口実に呆れるほど単純化して説明します。
今まで断わるのを忘れていましたが、音響インピーダンスも複素数で表されます。

さて、接している面に入射する音波の圧力をPi
接している面で反射している音波の圧力をPr
とすると、

入射する音波によって動かされる気体分子の動く速度Uiは
Ui=Pi/Za

反射される音波によって動かされる気体分子の動くUrは
Ur=-Pr/Za

なぜこのように気体分子の動く速度が求められるかというと、音響インピーダンスの説明のところで、音響インピーダンスZは、 圧力Pとその圧力Pによって動かされる分子の動く速度Uの比であるZ=P/Uで表されると説明しました。
この定義により、 速度U=P/Z なのです。

次に、接している面を透過して、媒質Bに入り込んだ音波の圧力をPtとすると、透過した音波によって動かされる分子の動く速度Utは
Ut=Pt/Zb

ここで、接している面の両側で、音波による圧力は同じ、分子の動く速度も同じとします。
(違ったら音波が連続にならない)
音波の入射側(媒質A)の音波による圧力は、入射する音波と反射する音波のそれぞれの圧力の和ですから
Pi+Pr=Pt ・・・式3

分子の速度が同じという事から
Ui-Ur=Ut
Pi/Za-Pr/Za=Pt/Zb ・・・式4

式4に式3を代入してPtを消すと
反射される割合Prは
Pr=(Zb-Za)/(Za+Zb)*Pi ・・・式5

媒質Aと媒質Bのそれぞれの音響インピーダンスZa,Zbが等しければ、式5からPr=0 で全て媒質Bに伝わることが判ります。

式1を求めるには、式5から
Pr/Pi=(Zb-Za)/(Za+Zb)
R=|Pr/Pi|^2 ・・・式6

式2を求めるには、式6から
S=1-R  ・・・・式7

但し、|A|はAの絶対値を求める


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