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和時計の不思議

身近な自然と科学 Vol.110 【和時計の不思議】から

“和時計”をご存知でしょうか。
偶にですが、テレビの時代劇などの小道具として出てきます。
和時計は、伝来の時計を日本社会に合わせて作り変えたものを指す訳ですが、“棒テンプ”に拘り続けたことに特徴があります。

棒テンプとは、14世紀ごろ考案されたもので、中点で水平に保持された棒の左右に分銅(錘)がぶら下げられ水平面で揺れるものです。
これが、振り子時計の“振り子”のように時を刻みます。

機械式時計が日本に渡ってきたのは1550年(天文19)、フランシスコザビエルが布教活動を認めてもらう為に周防の大内義隆に贈ったものが最初といわれます。

“大内義隆記”に、 『天竺からの贈り物の中に、12時を司るに、夜昼の長短を違えず、警鐘の声と琴の糸を引かざるに五調子十二 調子吟ずると・・・』
とあります。
真偽は不明ですが、一説には義隆は贈り物に喜んでカトリックの布教を認めたと言います。
それだけ素晴らしい贈り物だったのでしょうが、1551年陶晴賢の乱で焼失してしまい、 日本に現存する最も古い機械時計は徳川家康の持っていたスペイン製置時計です。


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先ず、棒テンプを使った和時計の前に、振り子時計が時を刻む仕組みから始めたいと思います。
振り子時計は、ゼンマイなどの動力部と時を示す針の間に介在する歯車に歯止めが掛かっていて、振り子が左右どちらかに振れた時に歯止めが外れ、歯車が歯数1個回転したら再び歯止めが掛かるようになっています。

歯数1個進む時間は、物理の教科書に出てくる単振り子の周期を表す公式
  T=2×PI× √(L/g)
振り子の長さを重力加速度で割ったものの平方根に円周率の2倍を掛けたものが周期になるで示されます。

この公式は、左右に振れる角度が極めて小さく、空気抵抗などを無視したものですが、周期1秒の振り子の長さは約25センチで、例えば、長さ約25センチの振り子を作れば、1秒間に歯数1個分回転する軸が作れ、これに針を付ければ秒針になります。
後はこの歯車の歯数の60倍の歯数を持った歯車を噛ませて分針を作り、更に歯数60倍の歯車を噛ませて1時間、更に12倍の歯数で12時間制の時計が作れます。

話題にしている和時計は振り子が棒テンプに換わるだけですが、問題は、 和時計の“棒テンプ”が振り子の役割をするか?  ということです。
水平面で或る角度だけ左右に回転(振動)する物に“捩り振子”があります。
これは、針金で錘を吊り、針金を捩り、元に戻ろうとする力で錘を回転させるもので、普通、針金の弾性率を測るために用いられます。

この捩り振り子の周期Tは
T=2×PI×√(I/c)
ただし、Iは錘の慣性モーメント
cは針金の捩れ係数
で表されます。

慣性モーメントというのは、鉄の様な剛体が或る軸を中心に回転運動するときに直線運動の場合の“剛体の質量”に相当します。
イメージが掴み難いので、比較的慣れ親しんでいる直線運動と比較してみます。

直線運動の場合は、  力=加速度×質量
 運動量=速度×質量
回転運動の場合は、  力のモーメント=角加速度×慣性モーメント
 全角運動量=角速度×慣性モーメント

という関係になり、剛体の回転運動における慣性モーメントは、直線運動における質量に相当すると理解してもらえると思います。
そして、慣性モーメントの値は、質量もった点から回転軸までの距離の二乗にその質量を掛けたものになります。

例えば、以下の例の様に計算します。
簡単にする為に質量ゼロの真っ直ぐな棒を考えます。
その棒の中点に回転軸を置き、回転軸か ら左側1mの点に質量2kg、右側2mの点に質量1kgの錘を付けたとすると、 1×1×2+2×2×1=6
慣性モーメントは6kg・m・mとなります。

棒テンプは水平な棒の中点に回転軸があり、棒には分銅という錘がぶら下がっていて、分銅は回転軸からの距離を変えられるようなっています。
距離を変えるのは時計の遅れ進みの調整ですから、棒テンプが慣性モーメントを使っていることは明らかですが、捩り振り子の原理を使っているのか、と思えば、棒テンプを針金で吊っている構造にはなっていません。
ただ、滑らかに回転するように支えられているだけです。

このような構造の物に振り子のような 等時性が無い のは明らかです。
というのは、棒テンプを元の位置に戻そうとする復元力が存在しないからです。
棒テンプを水平面で回転(左右に振る)させるのでは無く、90度傾けて垂直面で回転させると、重力が復元力になるので、速度と位置のそれぞれのエネルギーを交互に変換しながら振動を繰り返し、等時性が生じます。
この場合は、普通の振り子と同じ周期を持ちます。

では、 棒テンプが何故時計に使われたのでしょう?
直線運動の場合、質量の大きい剛体は動かし難く、動き出せば停め難いですね。
前に掲げた直線運動と回転運動の関係式で解かるように、回転運動の場合も同様で、慣性モーメントが大きい回転体は動かし難く、動き出せば停め難いのです。

棒テンプを使った時計が、ゼンマイ或いは錘の落ちる力で棒テンプを強制的に左右に動かしていることからして棒テンプの動かし難さ停め難さを時間の経過に無理やり関連付けようとしていると言えます。
棒テンプが都合が良いのは、錘の位置を変えることによって慣性モーメントの大きさを変えられること、言い換えれば動かし難さ停め難さを容易に変えられることです。

「時計は決まった時間を正確に刻む物を使っている」
という私たちの概念からすれば、棒テンプを使った時計は、時計と言うにはお粗末過ぎます。
現に棒テンプを使った和時計の精度は日に1時間、良くて15分の誤差があると言われます。


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和時計の問題は等時性の無い棒テンプを採用した事ですが、実は、和時計には“怪”があるのです。
一部の書籍には、日本で時計技術が遅れたのは鎖国の所為だと書かれていますが、真実は違うと思うのです。

1781年頃、「霊台儀象志」の記事で、振り子の等時性を知った天文学者は、振り子の振れる回数を積算して時間を知る方法を考案し、1782年麻田妥彰が錘の落ちる力を使って自動的に振り子を振らす促進器付振り子時計を作りました。
振り子時計の精度は思いの他高く、誤差は日に6秒と言われます。

前号【 時刻制度 】の薄明の中で
「貞享暦(1684年)では、薄明は日の出前と日没後0.025日(約36分)と定めれ ましたが、寛政暦(1789年)では、 太陽が地平線下7度21分40秒の点に到達した時と改められました」
と書きましたが、見えない地平線下の太陽の位置を角度で知るには時計の飛躍的性能向上があったのです。

太陽が地平線下7度21分40秒の点に到達した時 ”を知る方法ですが、江戸時代の観測機器に“黄赤全儀”と呼ばれるものがあります。
これは、天背環(子午線)、赤道環、黄道環、天の北極に向けられた回転軸の角度を読み取る時盤から成ります。
形は違いますが、天体望遠鏡の架台である“赤道儀”と同じで、黄赤全儀には望遠鏡が付いていないので精度は落ちますが、天体の位置(時角)を読み取ること、任意の時角の時の天体の位置(方角)を知ることが出来ます。

今号の表題に掲げた“和時計の不思議”というのは、振り子を使った時計が正確だと判っていながら、なぜ日本の時計技術者は“棒テンプ”に拘ったのか? ということなのです。

棒テンプが不定時法に向いていた訳ではありません。
昼用夜用の2つの棒テンプを、明け六つ暮れ六つに自動的に切り替える(二挺テンプ)や、時刻目盛りを簡単に換えられるように(割駒式文字盤)の細工までしています。
また、誤差はともかく、元々復元力を備えている振り子の方が棒テンプより工作が簡単に思えます。

夏休みの工作に時計を作れ、と言われれば、私は振り子時計を作ります。
おもしろさや美的感覚から言えば、棒テンプかも知れませんが、 和時計技術者が棒テンプに偏った理由がそうだったら哀しいですね。








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