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植物 種子を作ること

身近な自然と科学 Vol.113【種子を作ること】から

「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」
という名文は、女優・故森光子がロングランを重ねて有名な舞台公演『放浪記』の原作者である林芙美子の長編小説『浮雲(1951年)』中にあります。

さて、夏休みも終わり、これから実りの秋です。
主食である米を始めとして草の実や柿などの木の実も成ります。
これらの実は、動物にとっては大切なエネルギー源ですが、個々の植物にとっても子孫を増やすと同時に、自分が死んでも同じ種が生き長らえるための大事な命のカプセルです。

植物は私たち動物と異なり、一部の種を除いて基本的に永遠の命を持っています。
動物の場合は卵子と精子の結合から命が誕生しますが、老化し、やがて死を迎えます。
これは、卵子と精子を作っている生殖細胞のみが永遠の命をもっているからです。

しかし、植物の場合は挿し木繁殖で解る通り、全く同じ遺伝子を持ったものが未来永劫生き続けられるのです。
挿し木という人為的なものでは無く、自然界でも、倒木から芽が出たり、地表に顕になった根から新芽を出しているのはご存知の通りです。

この点に限って動物と植物の違いは、動物の細胞は、心臓を作る細胞、腎臓を作る細胞というように用途が決まっているに対し、植物の細胞は、各々の細胞が花や葉などの全ての部位の設計図を持っているということになります。
(前者を分化細胞、後者を未分化細胞といいます)

また、動物の場合は新しい細胞を作る力は生殖細胞にしか無いのに対して、植物の場合は、茎頂点と根端点に“成長点”、茎の髄の周囲に“形成層”と呼ばれる新しい細胞を旺盛に作る部位が存在します。
挿し木によって増やせるのは、形成層の力に拠ります。
ただし、形成層は、イネ科やユリ科、ラン科などの“単子葉植物”にはありませんから、単子葉植物は挿し木が出来ません。
(竹や笹類は単子葉植物ですが、挿し木が出来る可能性があります)

形成層は植物の死という問題に付いて重要な位置を占めるのでここで少し詳しく述べておきます。
先に述べましたように、形成層は新しい細胞を旺盛に作る薄い層ですが、形成層の細胞が増殖する事によって、この層の外側には維管束の“師部”、内側には“木部”が作られます。
師部は光合成によって作られた同化物質が、木部は根からの水分が通る通路です。

これらの通路も時間が経つと傷んで機能不全を起こしますから、一定期間ごとに作り変えなければなりません。
形成層を持つ植物の場合は、外側に新しく作ることが出来、このために幹や枝、根が太くなる訳です。

形成層を持たない植物は作り変えることが出来ずにその部分は枯れる事になります。
一年の一定時期に枯れてしまう植物です。
(主に冬ですが、在来種のタンポポは夏に枯れます)
また、“その部分は枯れる”というのは、茎に形成層が無いことがそのまま植物の死にならないものがあるからです。
茎が死ぬ事が死に繋がるのは、1年草、2年草といわれるもので、タンポポや菊のような多年草は、茎頂の成長点が根茎部に付着しているため、地上部を枯らして新しく作る方法によって生き延びています。
1年草や2年草の場合は、花を咲かせ、何らの方法で受粉し、種子を作ることが、自分の遺伝子を残すための絶対条件です。

ところで、種子を作る作業はいつ始まるのでしょう。
観察や実験によると、窒素分の欠乏と成長点の活動停止が花芽を作る時期を決めているようです。

窒素は、植物体を機能させたり形作るのに必要なタンパク質、円滑に機能させるために必要なビタミン類、遺伝物質である核酸(DNA,RNA)を合成するには欠かせないものですから、外部から窒素を摂れなくなると生存そのものが危うくなります。
窒素の欠乏は種の保存の為に種子を作ることを急がせる訳です。

米や果樹など実を作ることが目的の農業従事者が、育成期には窒素を多く、花芽を形成させる時期には窒素を少なくし、燐酸とカリを多めに与えているのはご存知の通りです。

しかし、自然界に於いて、土壌中の窒素分の急激な減少は考え難いものです。
実際には、窒素源に対する炭素源の比率(C/N比率)が問題になります。
植物は光合成によって有機物(当たり前ですが炭素を含んでいます)を作り出し、 この有機物と窒素によって前述したような必要な物質を作る訳ですが、植物体が大きくなり、光合成が活発に行われるようになると炭素が増え、その結果、相対的に窒素が不足してきます。
窒素が無ければ光合成によって作った有機物をタンパク質などに変えられず、貯蔵に回すようになります。
芋の様に根茎に貯蔵するものもありますが、種子を作る方に回す事にもなります。

次に、成長点の活動停止の条件はその植物固有のものです。
菊やアサガオのように日照時間が短くなると花芽を付ける“短日植物”は、日照時間がその条件になりますが、植物固有の条件と前述のC/N比率が影響し合っています。
梅木にこれとは開花時期の異なる梅を枝接木した例では、枝接木した梅も同時に開花した例があります。

また、一株に花と実が同時に付いていることがあります。
今の時季ですと、茘枝(俗に言うニガウリ、ゴーヤ)や茄子で良く目にしますが、これは枝頂点にある成長点の停止条件がC/N比率に影響されるからです。
一般的には主茎の先端部の成長点の停止時期が遅く、脇枝(脇芽)の成長点が早く停止して主茎より早く花芽を付けます。

実は、ここからが植物の悲しい宿命の始まりなのです。
種子を作るにしても窒素は必要です。
大豆から豆腐が作られることから解るように、種子には大量なタンパク質が含まれているのはもちろん、ビタミン類も大量に含まれています。
窒素が不足しているから種子を作るのに、種子を作るために窒素を必要とするのです。

ここで、植物は恐ろしいことを始めます。
自分の身体を作っているタンパク質を分解して窒素を供給するのです。
その上困ったことに、エチレンガスも放出します。
エチレンガスは植物ホルモンのひとつですが、細胞の呼吸を増進させる働きがあります。
その結果、身体を作っている有機物を意味無く分解して終わります。
このような激しい呼吸を“クリマクテリック型”と呼びます。
1年草や2年草の場合は、全ての成長点が活動を停止して光合成で得た有機物を種子作りに回したときに、自らの身体を分解する道だけになり命を失うのです。

多年草や樹木の場合は、冬場など成長点の活動が鈍って有機物の消費が減るときは、光合成による有機物の生産も減っているか全く無いので、1年草や2年草の様な運命を辿る事はありません。

柑橘類の場合はちょと変わっていてクリマクテリック型の呼吸は起きません。
熟した実が翌年まで枝に付いているのは急激な呼吸増進による組織破壊が無いからです。
新しい実が付いても翌年の実が枝に残っている事で縁起物になっている橙(だいだい)は典型的な例です。

いずれにせよ、自分が成長しなくなったら子である種子を作るのは合理的ですが、花を咲かせ実を結ばせる事は、自らの命を急激に縮めることになるのです。
花を楽しみ、植物の寿命を伸ばそうと思ったら園芸家がするように実を付ける前に花を摘んでしまうことです。

花を咲かせて枯れるで思い出すのは、60年に1度咲いて枯れると俗に言われる竹ですが、竹の研究家によればこれは嘘のようです。
第一、60年が嘘っぽいです。
洋の東西を問わず吉星と言われる木星の公転周期約12年と陰陽五行説の5を掛けて60年です。


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